訪問看護に花は咲く112


先日施設入所で終了となった元利用者のAさんがこの世を去られたとご家族から連絡がありました。

Aさんは腹膜透析を導入するからぜひ当ステーションに支援に入ってほしいと主治医から依頼があり訪問看護を開始した方です。
入院前のカンファレンスでAさんにお会いしてびっくりしました。
私の通勤途中でよくお見掛けする方でした。
Aさんは50歳の時脳出血を発症。懸命にリハビリし右半身の完全麻痺がありながら自動車を運転し遠方に外出し、調理以外の家事をこなしておひとりで生活していました。
私が見ていたAさんは杖をつきながらゴミ出ししている姿でした。
Aさんなら透析の手技をマスターできると確信しました。

入院で腹膜透析の手技を練習し、在宅生活が始まりました。
Aさんが選んだのは夜間に機械で自動的に透析するAPDという方法です。
機械のセット、時間が来たらお腹の管と機械をつなぎ透析開始。
朝に透析が終了したら機械とお腹の管を切り離すというもの。
訪問看護では機械のセットが正確にできるように支援をしました。
入院中に一通り練習しましたが、間違えることがあると病棟看護師から引き継ぎました。
「透析液を開通する」「機械のボタンを押していく」「機械にルートを装着する」「透析液とルートを接続する」
文章にするといとも簡単に思えますが、私たち看護師でもいきなり一人ではできません。
手順書を一つ一つ確認しながら、Aさんがご自身でマスターしていくのを見守りました。
一番苦労したのは「透析液を開通する」でした。
4リットルある透析液を開通するのは力がいるもの。
それをAさんは片手だけでするのです。
時間はかかりましたがいろいろな方法を試しマスターし、訪問看護の入らない日もできていました。

その後転倒して大腿骨頸部骨折で手術しましたが、家に帰りたいと懸命にリハビリし入院前と同じくらい歩行できるようになり退院。
自動車から電動カートに変わりましたが、外出を楽しんでおられました。

残念ながら血液透析に移行することになり、透析できる施設に入所となりました。
Aさんの訪問看護をしていて、身体の自由が利かなくても残存機能を生かして懸命に頑張る姿に勇気づけられました。
逆手で箸やはさみを持ち器用に使っている姿、失語症がありながらも機械のトラブル時に
コールセンターに電話して解決する姿に限りない可能性を感じました。

私にたくさんのことを教えてくれたAさん。
Aさんの訪問看護ができて嬉しかったです。
ご冥福をお祈りいたします。