寄り添うこと・・・(5)

A氏の支援にかかわって

 A氏は一昨年末に入院先の主治医から肝臓がんの末期で余命半年と告知をされました。早くに離婚して66歳のやもめ暮らしです。長男とは時々電話連絡を取っていましたが、ふだん顔を合わせることはありませんでした。お酒がやめられずアルコール性肝硬変から肝がんを発症しました。主治医の勧告を守れず、飲酒のため入退院を繰り返してきました。腹水が溜まるのを改善するため利尿剤を処方されているのですが、トイレに立つのが面倒なため、薬を飲まないことが続いていました。お腹はいつも臨月のように膨満しています。

 体力に余裕のあるうちは干渉をきらい、隔週の往診とヘルパー、訪問看護を週1回受け入れてもらうのがやっとの状態でした。入退院のたびにアパートと病室の訪問を繰り返し、ヘルパーの増回を説得してきました。夏を過ぎてから病状が進行し、体力の衰えが目立ってきました。秋には再び入院となり、主治医の提案を受け入れて腹水を体内で還流させるための手術を受けました。今まで手術は一切しないと言い続けてきた中で、初めて見せた気持ちの変化です。

 入院中に主治医、長男と相談の結果、ホスピスでの療養を決心されました。入院申込みのため長男が仕事を休んで手続きを行いました。本人の気持ちは揺れ続けます。間もなく転院という頃、ご本人から相談がありました。「最後は息子に看取られたい。息子がかけつけるまでは救命処置をしてほしい。」心の中にある家族への思いを感じました。ホスピスでは延命措置を行わないため、転院を取り消すことになりました。その後も気力で退院をし、アパートでの生活を再開します。体力の衰えに伴い、介護サービスを受け入れてくれるようになりましたが、再び体調が悪化し入院となりました。今回はトイレも一人でできなくなり、「情けない。」と言って、初めて涙をみせました。師走も終わる頃、2週間ぶりに病室を訪ねました。体重は元の半分になりましたが、食事もできるようになり、リハビリが始まりました。この1月には本人の希望でもう一度アパートにもどるための準備をすすめています。

 急変した場合に対応できるだろうかという不安もありますが、本人の自由に生活したいという思いを関係事業所の間で共有し、在宅生活の支援を継続していきます。同時に本人が頼りにしてきた長男の思いも尊重し、本人との援助関係を良好に維持していかなければと考えています。もう間もなくA氏の退院前カンファレンスです。

追悼のことば
退院前カンファレンスの前日、訃報を受けました。余命の告知を受けてから1年余り、入退院の繰り返しでした。信頼関係ができてきたように思う反面、本人の不安や孤独にどれだけ寄り添うことができたのか。援助を通じた人とのつながりが前向きに生きる支えになったことを願ってやみません。最後は長男に見送られ、穏やかに逝かれたと聞きました。心よりご冥福をお祈りします。

葵会総合ケアステーション
別所直幸